「3進法の箱」は、私が2000年に開発した作品です。職人になって4つ目の作品です。この作品には元になった作品があります。私の親方である亀井が1985年に作った「CUBI」(キュービ)という作品です。いわゆる「2進法の箱」です。これは私が「からくり箱」の世界に入るきっかけとなった作品でもあります。2進法のパズルと言うと、「チャイニーズリング」とか、「ブレイン・パズル」といった作品の歴史があります。こうした考え方を「からくり箱」に落とし込むと「2進法の箱」が出来上がります。そして更に、この2進法を3進法に置き換えると、「3進法の箱」が出来上がります。
そもそも2進法とか3進法とか、なぜそんな難しそうな概念を持ち出すのかというと、理由は簡単で、遊びに使えるからです。動かしてみると面白いのです。
さて、2進法というのは0と1だけを使って数を表現する方法です。これをからくり箱に置き換えると、各面に「閉まっている」「開いている」という2段階がある箱になります。「閉まっている」が0に、「開いている」が1に対応します。では「3進法」はと言うと、こちらは0、1、2の3つの数字を使って数を表現する方法なので、からくり箱の面の開き方も3段階になります。「閉まっている」「半分開いている」「完全に開いている」という3段階です。順番に0、1、2に対応します。1つの面を開ける時に、わざわざ一度、半分で止まってしまうように設計することで、この作品が出来ました。
324回という回数についてですが、実は開発の時には、回数を増やす事を目指した訳ではありませんでした。「各面を動かすのに、一度途中で止めたらどうなるのだろう?」、「面白い作品になるのではないか?」と、最初はそれだけを考えていました。完成してから数えてみると、結果として回数が10倍位になっていて、自分で驚いたものです。また324回という回数は、私が適当に決めた数字ではありません。詳しくは「『3進法の箱』の手数を計算する」で書きましたが、余計な仕掛を追加せずに、出来るだけ純粋に「3進法」という法則を作品に変換する事で、結果として324回という数字にたどり着きました。この回数は必然的なものだったのです。
写真は立方体の茶色い箱が亀井の「CUBI」です。32回で開きます。写真の知恵の輪は2進法の知恵の輪として有名な「チャイニーズリング」です。写真のディスクが重なったパズルが「ブレイン・パズル」です。これも2進法の仕組みを持っています。